自家発電するRNAナノマシン

トリガーに反応して形を変え、光を放つ新たな「分子トランスフォーマー」が誕生しました。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らはこの度、RNA配列を検出し、蛍光で存在を知らせることができるナノマシンを開発しました。 Nucleic Acids Research誌で論じられているこの技術を用いると、患者の病状についてシグナルを送るRNAの同定に使えるようになる可能性があります。

 「RNA分子トランスフォーマー」と呼ばれるこのナノマシンは、2つの状態の間を切り替えられる合成RNA分子です。このトランスフォーマーは、標的RNAに結合するとその形状を変え、新たな立体構造が蛍光を発することによって標的の存在を知らせてくれます。また、形状変化と同時に標的RNAを放出するので、さらに多くのナノマシンの形状を変化させることにより、シグナルを増幅させるのです。

 従来の研究でも、特定の標的を感知し、シグナルを増幅し、そして光るRNAセンサーが作成されましたが、これらは複数のRNA鎖を正確な比で混ぜる必要があり、そのようなマシンを作成し使用するのは簡単ではありませんでした。ところが、本研究において研究者らは、これら一連の機能を果たすことができる単一のRNA配列の設計に成功したのです。

 「RNAやDNAなどの核酸は、多様な機能を持つ魅力的な分子です。しかし私たちは、自然界に存在しているものを超えた、複数の機能を統合した分子の設計可能性を探ろうとしました。」と、この研究の責任著者である横林洋平准教授は説明します。

 

イラストレーターが描いた、ナノマシンの想像図。RNAトリガー分子により、ナノマシンの形状が変化し、蛍光シグナルを発する。トリガー分子は多くのナノマシンに作用し、光信号の増幅を可能にする。将来的には、この技術は患者の病状の識別に役立つ可能性がある。@skeppuccinoのその他のイラストは、skeppuccino.myportfolio.comを参照。
@skeppuccino

(ナノ)マシンの台頭

 本来、RNAには多様な機能があります。遺伝子発現を制御し、特定の分子を認識し、化学反応を触媒します。本研究で横林准教授は、研究チームメンバーである小堀峻吾博士と野村陽子博士と共に、新しい機能を持つRNAを合成しました。特にチームは、特定のターゲットが存在する場合にのみ形状が変化するRNAを設計したいと考えました。

 この合成RNAは、分岐構造と呼ばれる構造をとりますが、この構造は、熱力学的に安定ではありません。「フラストレーション」を抱えた構造と言えますが、この状態で長時間存在しうるのです。しかし十分なエネルギーが与えられると、より熱力学的に安定な棒状の構造に変化します。RNA配列によっては、構造変化に必要なエネルギーは高く、熱や触媒が必要ですが、他のRNAでは構造が自発的に変化します。

 横林准教授のチームは、正しいトリガー(特定の標的RNA配列)が与えられたときにだけ、熱力学的に安定な形に移行するRNAを設計したいと考えました。もしもRNA分子構造がトリガーなしに変化してしまうと、誤ったタイミングで蛍光シグナルを発してしまい、いかなる医学的用途にも役に立たなくなってしまいます。

 多くの合成RNAを模索した後、研究者たちは、トリガーが導入されたときにのみ大量の光を発するRNAを見つけました。

 「この初期段階の研究では、主に知的好奇心から、そもそもそのような分子マシンを作成することが可能なのかを探りました。将来的には、より医学的な応用を目指して生体内での実験や、より複雑な分子マシンの作成を考えています。」と、横林准教授は説明しています。

 将来的には、ナノマシンの配列情報を組み込んだウイルスベクターを用いて、ナノマシンを生きた細胞内に送達できるようになるかもしれません。 これにより細胞自身の機構を用い、細胞内でナノマシンを生成できるようになります。さらにこのナノマシンは、異なる病状に関連する特定の分子を感知することにより、診断装置として働くことになるかもしれません。

 横林准教授は、それが実現する日まで、RNA分子にどれだけ複雑な機能を組み込むことができるのかを探究し、このエレガントで小さなマシンの可能性を広げようとしています。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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