電子に強烈な影響を与える偏光

新たな研究により2次元システムにおける電子の動きを理解することを目指します。

  現代の電子工学は、負の電荷を帯びた数多くの電子の動きによって打ち立てられました。 ただし電子のふるまいは、普遍的でありながらも、その詳細は未だ明らかにされておらず、物理学者らを悩ませ続けています。 とりわけ、偏光した電磁波の影響を受けた際、電子はどのように動くかという疑問は、未解明の現象です。

  偏光は、電磁波や光波などの波が回転するときに発生します。 マイクロ波と呼ばれる電磁場は、時計回りまたは反時計回りに回転する電場を有し、ほとんどの理論において、マイクロ波は、電子の回転に影響を及ぼすとしています。 しかし実験をしてみると、電子がマイクロ波の偏光に影響を受けていないように見えます。 この理論に反した実験結果について、長年、物理学者は疑問を持ち続けてきたのです。

  しかしこの度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らによる新たな研究成果が、この理論と実験結果の乖離を説明できる可能性が出てきました。 本研究においてOISTの研究者らは、二次元平面上の電流を測定しました。 さらにマイクロ波の偏光を変化させることによって、偏光が実際に電子の動きに影響を及ぼすことを示しました。本研究成果は Physical Review Lettersに掲載されました。

  「電子とマイクロ波の両方の場が、同方向に回転すると、偏光の効果が最も強くなると予想する事は当然であり、回転の方向が反対であれば、効果がかなり減少すると考えるのは、自然でしょう」と、論文の上席著者でOIST量子ダイナミクスユニット を率いるデニス・コンスタンチノフ准教授はコメントします。コンスタンチノフ准教授とチームメンバーは実際、この現象を裏付ける発見をしました。

 

実験で使用した装置の前に立つ、OIST量子力学ユニットのデニス・コンスタンチノフ准教授 (左) とオレキシー・ザドロシュコ博士(右)

  今回、OIST研究チームは、ウクライナ低温物理工学研究所との共同研究を行いました。 ウクライナの研究者の一人が、研究における主要な理論を検証するための数学的枠組みを開発し、OISTの研究メンバーらが実験を用いて、その数学的枠組みの検証を行いました。

 

実験概略図。回転するマイクロ波場(E)が円形の電子層を通して送られる間、電圧(V)をかけて電流(I)を測定

  従来の実験では、電子の動きは、半導体のような固体状態の材料で研究されていました。 しかし固体材料は不純物を含んでおり、除去するのが不可能な不純物が実験結果を左右していました。 そこで研究者らは、液体ヘリウムを用いて半導体の機能をよく模倣した実験システムを作り出しました。 まずは真空槽内に閉じ込められた液体ヘリウムの表面上の電子を、絶対零度、おおよそ-273℃まで冷却します。

  「固体で理想的な材料というのはありません。ですから私たちの実験システムは素晴らしく、これらの不純物や欠陥をすべて除去することができます」と、コンスタンチノフ准教授は語ります。

  ヘリウムは、絶対零度に達しても、液体状態であり続けるという極めてユニークな性質をもっています。一方、他の化合物(ヘリウム内の不純物)は凍結して容器の壁に付着します。 このような超低温では、ヘリウムの表面の電子が「量子化」され、液体に垂直な電子の動きは、2次元空間内に「凍結」されると、コンスタンチノフ准教授は述べています。  

 

凝縮ヘリウム上に電子を載せたカスタム設計の真空槽。 マイクロ波が、円柱の導波管を通って導入され、球面鏡によって電子上に集束される。

  この実験システムでは、円形の偏波マイクロ波を電子層に送り、マイクロ波場の回転と同じ方向に電子を回転させました。すると電圧をかけた測定中の電子の流れが、磁場で振動し始めました。 磁場の方向を変えて電子の回転を反転させると、振動が著しく弱りました。 さらに研究者らは、電子の回転を変えずに、マイクロ波場の回転方向を逆転させることによっても、同様の挙動を観察しました。

 

色のついたプロットは、マイクロ波の磁場と周波数が変化する際の電子の流れを表す。 白い線は 磁場方向への強い依存性を表す線である。

  上記の実験結果は、電子は電磁波の偏光の影響を実際に受けることを意味します。本論文の筆頭著者であり、OISTのポスドクでもあるオレキシー・ザドロシュコ博士は、これらの電子が、なぜこのようにふるまうのか、さらに正確に理解する必要があるとコメントしています。

  「現時点では、数多く存在する理論のうち、どれが主要な理論なのかは示すことができていません。私たちの次のステップはさらなる詳細な研究です。」

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