ペロブスカイトの可能性

OISTの研究員らが、ペロブスカイトを材料とした技術を向上させました。太陽電池を活かした電力から、未来の電子機器画面を始めその他の照明機器の光に使われるLEDまであらゆるエネルギー資源において活用できるようになります。

   本来天然の鉱物であるペロブスカイトという物質ですが、今日の技術開発においての扱いは、地球のマントルにある岩を扱うのとは大きく異なっています。「ペロブスカイト構造」と呼ばれ、鉱物にもともと見られる一般的な三次元構造を保ちながら、さまざまな原子が組み合わさった構造をしているこの構造には、強い光吸収や電荷輸送促進などの優れた光電子工学の特性が見られます。これらの利点により、ペロブスカイト構造は、太陽電池から照明まで、電子機器の設計に特に適していると言えます。

   ここ数年のペロブスカイト技術の急速な発展は、ペロブスカイトを材料とした新しい機器が、近い将来、現在のエネルギー分野において既存の技術をしのぐということを示しています。その最先端をいくOISTのヤビン・チー准教授が率いるエネルギー材料と表面科学ユニット研究チームはこの度、ペロブスカイト太陽電池の向上に関する研究、そして、安価かつより賢明な手法を使ったペロブスカイトLED照明の作製に焦点を当てた研究について二本の論文を発表しました。

 

OISTエネルギー材料と表面科学ユニットの研究員ら. 左から ルイス・K・オノ博士、イェン・ジャン博士、リンチャン・メン博士とヤビン・チー准教授.

   太陽電池のサンドイッチ層にもう一層を追加

   ペロブスカイト太陽電池は、成長が著しい技術であり、現在業界で優位を占めている通常の太陽電池に取って代わるものになると予測されています。ほんの7年という開発期間で、ペロブスカイト太陽電池の効率は従来の太陽電池のものとほぼ肩をならべ、それをしのぐ勢いで性能を上げてきました。

   一方、ペロブスカイト太陽電池には、寿命が短いという持続性の課題も残ります。OIST研究チームはその持続性を向上させるための課題に一つひとつ取り組み、劣化の要因を突き止めより効率の高い太陽電池構築を目指し研究を続けています。

   今回、Journal of Physical Chemistry Bで発表された新しい発見で、太陽電池そのものの構成要素同士の相互作用が、機器の急速な劣化にかかわっていることを示しました。厳密には、太陽エネルギーから産出された電子を取り込み効果的に電流を作り出す酸化チタンの層が、隣り合うペロブスカイト層を不必要に劣化させていることが判明しました。太陽電池を、何層もの具材が挟んであるクラブサンドイッチだと想像してみてください。うまくサンドされていなければ、新鮮でみずみずしい野菜がパンの表面に触れ、パンは数時間で水分を吸って湿っぽくなってしまいます。ところが、野菜とパンの間にハムなどを挟むことで、サンドイッチは、冷蔵庫に入れておけば、ランチの時間には出来立ての状態のまま食べることができます。

   OIST研究チームは今回、このサンドイッチの層と全く同じ原理を応用しました。太陽電池の中に、ポリマーで作製したもう一層のレイヤーを追加し、酸化チタンとペロブスカイト層が直接触れ合わないような構造を考案しました。ポリマー層は両者を絶縁する役目を果たしますが、非常に薄い層であるため、電流の行き来を可能にし、かつ太陽電池としての性能を減少させることなくペロブスカイト構造を効果的に保護してくれるのです。

 

ペロブスカイト太陽電池には、両側には電極があり中央にはペロブスカイトが存在する、というように多くの層が含まれる。ポリスチレン層を間に加えることで、酸化チタンがペロブスカイトを劣化させるのを防ぐ。しかし、全体の電力変換の性能は失われない。

   「ペロブスカイト層と酸化チタン層の間に、ほんの数ナノメートルという薄いポリスチレンのシートを加えました。それでも電子は新しい層の間を通過することができ、太陽電池の光吸収には影響しません。こうすることで、太陽電池のエネルギー変換効率を落とさずに、その寿命を4倍延ばすことに成功しました。」と、チュウ・ロンビン博士が説明します。

   こうして新しいペロブスカイト機器の寿命を250時間以上に伸ばすことに成功した一方で、持続性という面ではまだ一般的な太陽電池に及びません。しかしながら、十分に機能するペロブスカイト太陽電池の開発に向けた大きな一歩となりました。

   ガスを用いてLED照明を製造する

   ペロブスカイト構造にある両極式電子の特性は、太陽エネルギーから電気を作製する能力のみならず、その電気を鮮やかな光に変換することができることです。私たちの日常生活の中でどこにでも見られるノート型パソコンやスマートフォンの画面、車のヘッドライトや天井の電球などといった、発光ダイオードまたはLEDと呼ばれるものの作製技術は、現在、製造が難しく高価である半導体に頼っています。ペロブスカイトLEDは低コストでエネルギーを光に変換する効率の良さから、近い将来は業界の新たな標準規格となると考えられています。さらに、ペロブスカイト構造の原子の配合を変えることで、ペロブスカイトLEDは簡単に特定の色を発色させることが可能になります。

   これらのペロブスカイトLEDの製造は現在、対象になる物質の表面を液体化学薬品に浸したり、液体化学薬品で覆う手法が基本ですが、この方法は確立が難しいため、小さい面積に限られたり、サンプル間の均一性に欠けることがあります。この課題を解決するため、OIST研究チームは、化学蒸着(またはCVD)と呼ばれる手法による、ガスを使った初のLED作製に成功したことをJournal of Physical Chemistry Lettersに発表しました。

   ヤビン・チー准教授によると、「化学蒸着は、すでに産業界でも互換性のあるものとなっています。そのため、この技術をLED製造に適用するのは容易なことでしょう。CVDの2つめの利点は、液体での処理法と比べて、1回1回のサンプル上の変動がかなり小さいことです。また作製できる大きさの点においても優れています。CVDを用いれば広い面積の均一な表面に技術を施すことが可能になるのです。」

   太陽電池のように、ペロブスカイトLEDもまた多くの層から構成され、それらが作用しあっています。まず、インジウムスズ酸化物のガラス膜とポリマー層がLED内に電子を通します。ペロブスカイト層に欠かせない化学物質である臭化鉛と臭化メチルアンモニウム、これらが、CVDにより、サンプルに連続して付着します。このとき、サンプルはこれまでの液体処理法によるコーティングの代わりに、ガスの吹き付けによってペロブスカイトに変換されています。ペロブスカイト構造がどれくらいのサイズの粒子で作られているかというのは、機器の性能にとって決定的な要因となりますが、この過程では、ペロブスカイト層はナノメートルという極小の粒子で作られます。最終段階で、その他2層に加え金電極の蒸着を行い、完全なLEDができあがります。この工程では、リソグラフィーを用いてLEDに特定のパターンを形成することも可能です。

 

(上図)ペロブスカイトLEDの入った炉内にガス状の臭化メチルアンモニウムが注入され、LED表面に蒸着する。 (下図・左)電気が流れると緑色に発色するガラス基板のLED。 (下図・右)LED表面に見られるペロブスカイト粒子のサイズと形状

   「粒子が大きいとLEDの表面は粗く、発光の効率が低くなります。粒子サイズが小さければ小さいほど、効率が向上しより明るく発光することができるのです。製造時の温度を変化させることで、大きさ調整の過程をコントロールし粒子のサイズを最も効率よい大きさにコントロールできるのです。」と、リンチャン・メン博士が説明します。

   ただし、このような手法を使って組み立てるのは初めてとなるLED作製技術における課題は、粒子サイズをコントロールすることだけではありません。

   「ペロブスカイトは優秀です。でも同時に、隣接する層にどのようなものを選ぶかということも非常に重要なのです。電気から光への変換率を高めるには、各層が互いに調和しながら作用しなければなりません。」と、ルイス・K・大野博士が付け加えます。

   その結果、柔軟で厚いフィルムのような、表面のパターンを自由に変えられるLEDを作製することに成功しました。現時点での輝度または明度は560カンデラ毎平方メートルあり、一般的なパソコン画面からは100から1000カンデラ毎平方メートル、室内蛍光灯では12,000カンデラ毎平方メートルの輝度があります。

 

化学蒸着を使って作製した大きなペロブスカイトLED。5ボルトの電圧につなげて、OIST文字のパターンが刻まれた表面を通って照らされている。

   「次の目標は、輝度を1000倍、もしくはそれ以上に向上させることです」と、メン博士が締めくくります。「加えて、これまで化学蒸着を施したLEDで、緑色を発色する光を作り出すことには成功しましたが、現在は、鮮やかな青色または赤色を出すためにペロブスカイトの組み合わせをさまざまに変えるというプロセスを繰り返し行っているところです。」

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