ヒモムシとホウキムシのゲノムが明かす、私たち人間と遠縁の生物との意外なつながり

二つの海産無脊椎動物のゲノム解読によって、遠くはなれた動物群の遺伝的類似性が明らかになりました

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)にある海洋生物学の研究室を訪ねたら、シャーレーの中で身体を長く伸ばしたり縮めたり、もだえるように動く奇妙な動物を目にするかもしれません。そしてさらに、こうした普段はあまり目立たない動物とあなたの間に、たくさんの共通点があることを知って驚くかもしれません。

 OISTマリンゲノミックスユニットの研究者が、岡山大学と共同で二つの海産無脊椎動物のゲノムを解読し、この動物たちが私たち脊椎動物との遺伝学的類似性を保持していることを発見しました。この結果は、これらの動物群が進化系統的に離れていることを考えると驚くべきことです。

ヒモムシの一種ミサキヒモムシ(Notospermus geniculatus)。左:体が縮んだ状態。右:体が長く伸びた状態。ヒモムシの体は伸縮自在で、Lineus longissimusというヒモムシでは伸びると30mにもなる。

 今から5.5億年前に、左右相称動物(体の作りが左右相称な動物)に進化が起こり、前口動物(旧口動物)と後口動物(新口動物)という二つの大きなグループが生まれました。後口動物には魚類、鳥類、両生類、爬虫類、そして我々ヒトを含む脊椎動物や、ウニやヒトデといった無脊椎動物も含まれます。一方、前口動物には昆虫、クモ、ロブスター、プラナリアなどの無脊椎動物が含まれます。今回の研究で使われた動物は前口動物の中の冠輪動物と呼ばれるグループに属するものです。

 いささか漠然とした響きを持つ名前ですが、冠輪動物は海の生き物の1/3以上を占めています。ミミズ、ヒル、巻き貝、カキ、タコ、その他の無脊椎動物などがここに属し、多くの重要な生態学的役割を果たしているのです。

 Nature Ecology & Evolutionに掲載された今回の研究では二つの冠輪動物、紐虫動物・ミサキヒモムシ(Notospermus geniculatus,ribbon wormと呼ばれる)と箒虫動物・ホウキムシ(Phoronis australis:horseshoe wormと呼ばれる)のゲノムを解読しました。その結果、この二つの動物は見た目がかなり違っているにもかかわらず、非常に近縁であることが分かりました。

左:サンプリング場所。ミサキヒモムシ(Notospermus geniculatus)とホウキムシ(Phoronis australis)は岡山県瀬戸内市牛窓町で、ミドリシャミセンガイ(Lingula anatina)は鹿児島県奄美大島笠利湾で採集。右:今回の研究で使われた動物の進化関係とその身体の構造を示す。

 驚いたことに、前口動物に属するこの二つの海産無脊椎動物の遺伝子ファミリーと遺伝子の並びの多くが、脊椎動物を含む後口動物のものと共通であることが今回の研究で分かりました。例えば、多細胞性や身体の内部環境を保つ遺伝子は両者で共通します。また、頭部形成を制御するシステムも共通で、脊椎動物の頭部パターン形成をコントロールするメカニズムと同じものが、ヒモムシの頭部形成やホウキムシの摂餌に使われる触手形成をコントロールしています。同じ前口動物でも、昆虫などはこうした遺伝学的特徴を失っています。

左右対称動物の進化関係。頭部パターン形成に関わる分子プログラムが保存されている場所をオレンジ色で示した。(左から)脊椎動物、カブトムシ、ヒモムシ、ホウキムシ、シャミセンガイ(一番下)左右対称動物の祖先

 また一方で、毒タンパク質を作りだす遺伝子や免疫に関わる遺伝子などの多くのゲノム科学的特徴は、この動物群に特異的であることも分かりました。つまり、ある遺伝子は進化的に保存される一方で他の遺伝子は革新的に進化してきたという、動物進化の二面性を示すものです。この論文の筆頭著者である駱乙君博士(ルオ・イージュン、執筆時OIST博士課程学生)は、「動物の進化がいかにダイナミックであるかを示せたと思う」と述べています。

 動物界が多様性に富んでいるにも関わらず、ある特徴は進化系統的にかなり離れた動物群で保存されています。駱博士はさらに、「我々ヒトが、遠い祖先が獲得した遺伝的プログラムを数億年たった今でも維持していて、我々と彼らが仲間だったことを物語っていることに感激しています」と話しています。

 

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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