養豚場排水を微生物燃料電池できれいに浄化

OIST研究員らが、環境に優しい技術を利用して排水処理の性能を向上させました。

  環境に対する今日の問題のひとつに、工場や事業所から出る排水問題があり、養豚などの農畜産業からは、有機物質や悪臭を放つ物質、その他の物質を含んだ多量の汚水が排出されます。通常、排水処理・再利用には、曝気、一部は肥料として利用したり、海外では特定の沼地や湿地に溜めて自然に浄化させたりする方法があります。沖縄のように養豚場の多い地域では、排水処理や再利用の課題を抱えています。このような状況を改善するため、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生物システムユニットでは、微生物燃料電池と呼ばれる水処理技術の開発に取り組んでいます。

  微生物燃料電池は、排水などに含まれる微生物の働きによって分解される物質やそれら微生物がたくさん詰まっている無酸素状態の装置で、バイオ電気化学システムを用いて作動します。つまり、装置内の微生物が有機物を分解した際に発生する電子を電極に渡すことにより電力を作り出すのです。外部からの電源供給は必要ありません。微生物燃料電池内部を排水が通過するとき、微生物は、排水の中に存在する有機物を消化します。そうして、装置の反対側から浄化された水が排出されるという仕組みです。さらにこの消化プロセスにより、装置自体が必要とする電源の自己供給が可能になります。このように、排水処理作業によって浄化し、同時に電気エネルギーを発生させることのできる装置なのです。

 

生物システムユニット内にある微生物燃料電池。内部には、沖縄県畜産研究センターで採取した養豚排水が入っている。

  「この装置はメンテナンスが容易でコストがかからない上、可動式のパーツがあまり多くありません」と、OIST生物システムユニットに所属するシンプソン・デイビッド技術員は説明します。

  「理想は、必要な場所に装置を設置するだけで、あとはそれを忘れてしまってもよいようなものを作ることを目指しています。装置自身が排水をモニターして処理を行ってくれるのです。」と、OISTで生物システムユニットを率いるイゴール・ゴリヤニン教授も説明します。

  OIST研究チームはすでに、様々な種類の排水に対し、大きな故障なく長時間稼働できる性能の微生物燃料電池を開発することに成功しています。そしてこの度、さらに装置の性能を高める方法を考案しました。本成果は、オープンアクセスの科学ジャーナルである Scientifica に発表されました。微生物燃料電池の稼働を始める前には、消化機能を持つ微生物群の培養と植菌を行いますが、この準備段階には、微生物燃料電池内部の負極の部分にあたるアノードと呼ばれる部分に、微生物を含んだ少量の汚泥が必要です。ここで、あとに続く排水処理で役に立つ微生物が増殖されるのです。

  本研究で、OIST研究員らは、アノードに入れる汚泥が、過去に特定の同じ排水に触れているものであれば、微生物燃料電池はより高い性能で排水処理ができるという仮説を立てました。この仮説を検証するため、研究チームは、沖縄本島北部、今帰仁村にある、沖縄県畜産研究センターの協力のもと試験を実施しました。試験には、同センターの養豚場および地元醸造所の浄化槽から回収した汚泥をそれぞれ使用しました。これらの汚泥による微生物燃料電池の処理能力を比較すると、養豚場の汚泥を利用した微生物燃料電池のほうがより良く養豚場の排水を処理できることが分かりました。その際、研究員らが指標にしたのは、水質の指標となる化学的酸素要求量(COD)と、臭気のもととなる揮発性脂肪酸の除去率、そして発電量でした。

 

沖縄県今帰仁の沖縄県畜産研究センターの家畜排水を採取するデイビッド・シンプソン技術員

 

沖縄県畜産研究センターで飼育している豚
沖縄県畜産研究センター

  研究チームは養豚場のほか、沖縄県内の泡盛醸造所、スコットランドのウィスキー蒸留所、そして米国カリフォルニアのワイナリーなど、国内外で微生物燃料電池の設置をしてきました。カリフォルニアでは、処理された排水を小規模な灌漑用水として利用しています。また、泡盛醸造所に設置した微生物燃料電池は5年ほど稼働し続けており、今のところこの泡盛醸造所で処理した水は、下水道に排出できる安全な基準を満たすレベルまで浄化されていると、シンプソン技術員は話しています。

  「排水に含まれる有機物を90%程度の高い割合で取り除くことができます。」とシンプソン技術員は続けます。「しかし、その反応で窒素とリンが残ります」これらは、藻類を繁殖させ、水中の酸素を減少させます。そこで研究チームはその排出を減らす取り組みを目指して、まずは研究室内で、これらの栄養素(窒素とリン)を回収・除去する研究を続けています。

  現在、研究グループは沖縄県の補助金を受け、沖縄県環境科学センターおよび沖縄県畜産研究センターと共同で、養豚排水よりリンと窒素を取り除くための解決策の開発に取り組んでいます。実現すれば今後、肥料として、貴重で持続可能な副産物となり得る可能性を秘めています。

 

OIST生物システムユニットが沖縄県内の泡盛醸造所に設置した微生物燃料電池

  「排水を処理することは、ゆくゆくは安全な飲み水の供給がない国の人たちの役に立てることにつながります。水を浄化し、飲み水用の井戸に利用することができるかもしれません」とゴリヤニン教授は語ります。

  現在、OIST研究チームは、いつの日か地球全体の排水処理問題を軽減するという目標に向かって、試験や運用を重ね、微生物燃料電池を最適化する研究を続けています。

 

 

研究ユニット

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

シェア: