OIST研究者ら、新たなベンチャー企業設立のための助成金獲得

大学発新産業創出プログラム(START)が研究成果の技術移転を可能にします

  この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らが、エネルギーを発生する廃水処理技術を企業創出に生かすという目的で、科学技術振興機構(JST)より助成金を獲得しました。

  OISTの生物システムユニットで開発された本技術は、バクテリアを用いて環境汚染物質を含む廃水を浄化しながら、その過程で発電も行います。

  微生物燃料電池と呼ばれるこの装置では、両側に電極をもつ槽によって仕切られています。一方の電極は、特別な微生物が内包されており、無酸素状態で有機廃棄物を分解する際、電子を放出します。この放出された電子が回路を流れてもう一方の電極に向かい、電流となって発電できるのです。多くのエネルギーを必要とする従来の廃水処理方法とは異なり、微生物燃料電池は、消費するよりも多くのエネルギーを生み出すので、持続可能なエネルギー源として実用的です。

  「私たちの装置は、有機廃水を大量に排出する沖縄の地場産業にとって、非常に有用な技術となっています。」と、生物システムユニットのメンバーで、本技術開発の中心的役割を担うデイヴィッド・シンプソンさんは強調します。

  地場産業のひとつの例として、沖縄特有の、米から蒸留酒をつくる泡盛醸造が挙げられます。泡盛を蒸留すると、米の一部と発酵プロセスを開始させるための麹菌、その他の廃棄物を含む廃水が残ります。OISTの研究者たちは本技術を使うことで、この廃水を害なく環境中に放つことを可能にしたのです。

  泡盛酒造で知られる瑞穂酒造株式会社(沖縄県那覇市)で、本技術を利用した3年間にわたる実証実験の成功を経て、この度JSTによる大学発新産業創出プログラム(START)への採択(平成28年度第3サイクル審査分)が決まりました。これにより、産業応用強化に向けた事業拡大が可能になります。

  「本プロジェクトは廃水環境問題の解決のみならず、沖縄の持続可能な発展に貢献するでしょう。」と生物システムユニットのリーダーであるイゴール・ゴリヤニン教授(アジャンクト)  は述べます。

  本プロジェクトの究極の目的は、廃水を浄化するバクテリアから産出されたエネルギーを高効率で利用し、でこの技術を活用することで、2018年度末までに、瑞穂酒造株式会社の廃水処理においてエネルギーの自給自足を可能にすることにあります。さらにはバクテリアを様々に組み合わせることで、その他特定の廃水処理にも使用できる可能性があり、地元の養豚場や豆腐工場でも実用化できるかもしれません。同時に、持続可能なエネルギー創出とともに廃水処理を可能にする技術により多くの国際的な産業も期待を寄せます。

  「本技術は保守・管理コストがおさえられ、使い勝手もよいので、発展途上国に活用でき、世界中の水資源の改善に役立つでしょう」とシンプソンさんはコメントしています。

  OISTの研究員らは、本助成金事業で微生物燃料電池を産業界向けに商業利用することを支援するベンチャーキャピタル のバイオ・サイト・キャピタル株式会社とパートナーシップを組んでいます。同社とOISTは、以前にも共同事業で成功し、OIST初のベンチャー企業である沖縄プロテイントモグラフィー株式会社を設立したことを考慮すれば、生物システムユニットの研究員たちが、本助成金に支えられた連携事業により、微生物燃料電池技術が内外で受け入れられることに希望を持つのも頷けます。

  生物システムユニットのメンバーであるフェダロヴィッチ・ヴァチェスラヴゥ博士は、今回の事業採択に多大な期待感を寄せており、本技術が日本において商業化される絶好の機会であると考えています。

 

(左から)生物システムユニットのデイヴィッド・シンプソンさん、フェダロヴィッチ・ヴァチェスラヴゥ博士、そしてイゴール・ゴリヤニン教授が、廃水処理技術をベンチャー企業に移転させるためのSTART助成金を獲得しました。

  *大学発新産業創出プログラム(START)では、事業化ノウハウを持った人材(「事業プロモーター」)ユニットを活用し、大学等発ベンチャーの起業前段階から、研究開発・事業育成のための公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、リスクは高いがポテンシャルの高い技術シーズに関して、事業戦略・知財戦略を構築しつつ、市場や出口を見据えて事業化を目指す。これにより、大学等の研究成果の社会還元を実現しつつ、持続的な仕組みとしての日本型イノベーションモデルの構築を目指します。 

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