2015-08-19

新たな危機を克服するためにミツバチが見せた劇的進化

 生き残りをかけて苦闘するミツバチ、そして、ミツバチたちに作物やその他さまざまな植物の受粉を頼る多くの人々に希望をもたらす研究結果が、国際的な共同研究チームによって報告されました。

 花粉の媒介者として重要な役割を果たしているこのミツバチが、過去十年間にわたり世界各地で大量死するという現象が起きています。Varroa destructorと呼ばれる捕食性のダニの繁殖が主な原因でした。しかしこの度 Nature Communications (ネイチャー・コミュニケーションズ) に発表された本研究論文によると、ミツバチたちは見た目ほど危機的状況に陥っていたわけではないのかもしれません。

 研究者たちはニューヨーク・イサカの周辺にて野生のミツバチ群を発見しました。そのミツバチたちは、1990年代半ばにその捕食性のダニがその地域で大量発生していたにも関わらず、以前と同じようにたくましく生存していました。

 「ミツバチたちは一度打撃を受けましたが、そこから回復したのです。そのミツバチ個体群は、捕食性のダニの脅威に対する遺伝的抵抗性を獲得したのだと思われます」と、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の准教授で、論文の筆頭著者であるアレキサンダー・ミケェエブ博士は述べています。

 ミケェエブ准教授をはじめとしたOISTやコーネル大学に所属する共同研究者たちは、1977年に採集したミツバチ標本のDNAと2010年に同じ森林で採集したミツバチのDNAとを比較することにより、同地域の野生のミツバチにおける遺伝的な変化を調査しました。本調査を実施するにあたり、研究者らは新しいDNA解析手法を開発しました。それは博物館に標本として保管されている古い資料の、劣化したDNAの分析に特に有効な手法でした。

 特にミツバチでは、このような研究例は非常に稀です。まず、ミツバチを採集する人はほとんどいません。個体群レベルの研究の材料として充分なサンプルとなると、さらに少数です。コーネル大学のトム・シーリー教授が博士課程の学生時代にこの地域で調査を実施し、この時の標本をコーネル大学昆虫博物館(CUIC)が所蔵していたのは幸運なことでした。ミケェエブ准教授たちは、ダニの大量発生といったある種の事件後に起こるゲノム全体での遺伝的変化を、初めて目の当たりにする機会に恵まれたのです。

 「私たちは博物館標本を用いることにより、実際の進化がどのように起こったのかを通常予測される進化と比較しました」と、OIST生態・進化学ユニットを率いるミケェエブ准教授は述べています。

 進化は数千年、または数百万年かけて起こるものであると多くの人々が想像していることでしょう。しかし実際のところ、進化は世代の移り変わりに伴い起こるものなのです。外部要因によりある特性が選択され、その特性は生存と繁殖の可能性を高めるため子孫に伝えられます。研究チームはほんの数十年間を隔てた同じコロニーからのミツバチを比較しただけで、まさにそこで展開される自然選択を観察できたのです。

 ミツバチたちには他にも世代間でいくつかの変化がみられました。

 まず細胞の「発電所」に相当するミトコンドリアのDNAに起こった世代間の変化は、予想を有意に超えていました。ミトコンドリアDNAは母親からのみ伝えられるため、その大きな変化は、古い世代の女王バチの多くが生き残れずに個体群が大きく減少したことを示しています。しかしそれでも、生き残った個体群の細胞核内に存在するゲノムでは、高い遺伝的多様性が維持されていました。遺伝的多様性は生物の進化の源であり、高い遺伝的多様性は環境適応に成功する可能性を高めます。

   生き残ったミツバチ個体群におきた最も興味深い変化のひとつが、ドーパミン受容体に関わる遺伝子でみられました。この遺伝子は不快、あるいは危険なものを避ける忌避行動の学習を制御することで知られています。先行研究では、この受容体が、ダニを噛み砕いて体から取り除くためのグルーミング行動に関わっていることが示唆されています。

   ほかにも研究者たちは、成長に関わる遺伝子にも多くの変化が生じていることを明らかにしました。このダニは、ミツバチの幼虫期間に繁殖してその幼虫を捕食するため、ミツバチ側はこれを避けるために進化したのではないかと研究者たちは考えています。身体的にも変化が見られました。現在のミツバチたちは当時の個体よりも小型で、翅の形が変化しているのです。

 研究者たちはこうした変化が、ダニの発生のような特定のひとつの原因によるものだということは断定できないとしています。それを特定するには、数十年という時間は長すぎた(比較した世代が離れすぎていた)ためです。しかし、今回観察された変化は、偶然に生じる遺伝的な変動で片付けるには大きすぎるもので、アフリカ化ミツバチの例のように、外部の個体群からの遺伝子の導入によるものでしょう。そしていまだ観察された変化の最大要因は、やはり自然選択だったのです。

 ミケェエブ准教授は、「この発見により、さらに強い抵抗力をもつミツバチの育種に用いることができそうな候補遺伝子を特定することができました。ドーパミン受容体遺伝子などです。またさらに重要なことですが、この事例は自国のミツバチの遺伝的多様性を高い状態に保つことの重要性を教えてくれます。それは今後発生する危機を克服するのに役立つでしょう。」としめくくっています。

(ローラ・ピーターセン)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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