台風は雨を降らして怒りを鎮める

OIST研究者たちにより、従来の台風の強度予測には組み込まれてこなかった重要な要素が特定されました。

   接近してくる台風の破壊力を正確に予測できれば、事前の対策のあり方が大きく変わり、その結果人命の安全確保にも影響します。しかし進路予測に比べ台風の強度の予測技術は、気候科学において過去数十年間にわたりあまり進歩してきませんでした。

   この度沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、現在の予測モデルでは考慮されていない台風のある側面が、台風上陸がもたらす破壊レベルを同定する上で重要な役割を果たしていることを見出しました。

   台風は雨という形で大量の水を放出します。本研究ではこの落下する雨と叩きつけるような強風との間に生じる摩擦によってエネルギーが失われることで、台風の破壊力、つまり台風の強度が最大30%も減少する可能性があることが実証されました。

   OISTの流体力学ユニット連続体物理学研究ユニットの研究者による本研究成果は、Geophysical Research Letters オンライン版に掲載されました。

   台風の強度は台風の中心軸(「台風の目」と呼ばれる円柱状の空洞)の基部における風速によって決定されます。この風速を予測するため、現在科学者らは台風を海面水から供給される熱を燃料とするエンジンとしてモデル化しています。

   海面水の熱は海面から水蒸気という形で運び去られます。この水蒸気は台風の螺旋状の気流によって巻き上げられ、台風の中心軸内へと吹き込まれます。水蒸気は暖かい海から離れるにつれ、温度が下がって水に戻り雨となって降ります。台風の中心軸内に存在する雨の量は1日当たり2兆リットルにものぼるため、大きな川がまるごと空から落下してくるものと考えて良いでしょう。

「1つの台風で雨と気流の間の摩擦によってエネルギーが失われていくペースは、日本の経済活動を維持するためにエネルギーが使われるペースに匹敵します」と、本論文の筆頭著者であるOIST連続体物理学研究ユニットのタパン・サブワラ博士は述べました。

   今回OISTの研究者たちが台風の強度予測を行い、その結果を過去30年間にわたり蓄積された衛星データと比較したところ、雨と気流の間の摩擦力を予測に取り込むことによって予測値と実際の観測値との間の誤差を大幅に埋められることを発見しました。

 「この研究では単純な数学モデルを使いました。現在は、実際の台風予報で用いられている最先端のモデルを調べているところです」と、OIST流体力学ユニットを率いるピナキ・チャクラボーティー准教授は述べました。

   気候変動により世界中の海洋の温度が上昇し、今よりも強力な台風の発生につながると考えられています。台風の強度予測の精度向上は、被害を未然に防ぎ、犠牲者数を最小限に抑えるために不可欠です。 OISTで行われている本研究は、その実現に向けた大きな一歩となります。

(ジョイクリット・ミトゥラ) 

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