流体における乱流の研究

OISTの新しい実験設備は、乱流の研究において科学と技術を統合することを目指しています。

 OISTの管内流動実験は物理学と工学分野の長年のギャップを埋めようとしています。実験施設は、ピナキ・チャクラボルティー准教授の流体力学ユニットとグスタボ・ジョイア教授の連続体物理学研究ユニットによって組立てられています。両ユニットは、石油パイプライン、河川、火山の噴煙および台風に見られる乱流について研究をしています。乱流を理解することは、石油パイプラインの摩擦抵抗の減少に役立ち、結果としてガソリン価格を抑える結果となります。また暴風の予測精度の向上につながり、台風襲来時に人命を救える可能性が高まります。こうした多様な用途にもかかわらず、これまで科学者と技術者はそれぞれ異なる角度から乱流の研究を行っています。そこでOISTの管内流動実験は、これらの異なる研究を統合することを目指しています。

 乱流はカオス的運動の一形態です。チャクラボルティー准教授は「乱流においては、速度は一定ではありません。それどころか、常に変化し変動します」と、語っています。物理学者や数学者は乱流の変動に関する統計に取り組んできました。同時に、技術者の多くは、乱流とそれに接触する壁の間に生じる摩擦に関心を寄せてきました。この摩擦は、現実世界のさまざまな用途に関係しています。例えば、これはパイプラインを通して石油をポンプ輸送するコストがこれで決まります。驚くべきことに、乱流統計と摩擦というこれら2つの分野はこれまで統合が試みられたことはありませんでした。その結果、技術者が新しいシステムを設計する場合には、ほとんど実験データに頼らざるを得ませんでした。一方、数学者や物理学者の研究結果は、現実世界の用途にほとんど影響を与えることはありませんでした。

 チャクラボルティー准教授とジョイア教授は、OISTの2大ミッションである科学と技術の両方を視野に、乱流統計と摩擦の統合することでこれら2分野に進歩をもたらすことを目指しています。同教授らは、技術者の乱流摩擦と物理学者や数学者の乱流変動に関する統計との間に、流体の渦と摩擦抗力の間の「ミッシングリンク」が存在することを発見しています。また、すでに石鹸膜を用いた2次元流れに関するテストで、彼らの理論が正しいことを実証しています。現在、研究チームは3次元流れでその理論を調べる準備に取りかかっています。

 そのため、研究グループは非常に高感度の検出機能と測定機能を有する専用の管路を構築しました。乱流は、レーザーシートおよび高速・高解像度カメラを用いて観察されます。同システムは、両教授の共同研究者でもある明治大学の榊原潤准教授によって開発されたもので、榊原准教授はこの分野で世界的に名の知れた研究者です。カメラで密接に追跡できるガラス粒子が流体内に入れられます。粒子は、レーザーシートを通過するときに光を散乱し、高精密カメラがその粒子の動きを追跡します。

 「我々の当面の目標は、乱流に関して実用的な工学と理論的な数学や物理学との間のギャップを埋めることです」と、ジョイア教授は語っています。チャクラボルティー准教授は「最終的には、我々の実験と理論が台風や火山の流れのような地質学的流れに関する新たな発見につながることを願っています」と、補足しています。大型台風に見舞われる時期が近づいている沖縄にとって、この研究は特に意味のあるものになるかもしれません。科学と技術を統合することにより、管内流動実験は、何十年もの間、科学者や技術者が解明できなかった乱流についての画期的な識見を提供するかもしれません。

(エステス キャスリーン)

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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