オニヒトデ駆除をめざして

OIST研究員たちは地元漁師と協力し、オニヒトデの個体群動態を研究しています。

 オニヒトデ(Acanthaster planci)の長期的な個体群動態に関する新たな研究が、Marine Biologyに掲載されました。本研究は、沖縄県恩納村の地元漁師の皆さんと沖縄科学技術大学院大学(OIST)の協力により24年間にわたり収集されたデータに基づく、この種の研究では最も長期的で大規模な調査の一つです。漁師による数多くの支援とデータの提供により、OISTの研究員たちは長きにわたってオニヒトデの移動と個体数を高い精度で特定することができました。この共同作業はOIST海洋生態物理学ユニットの中村雅子研究員の主導によって行われてきました。

 オニヒトデは、サンゴ礁を形成する造礁サンゴであるイシサンゴ目に対する侵略的な捕食者です。オニヒトデは一個体での被害は小さいものの、多く集まるとサンゴ群集を破壊することが可能で、その大発生はサンゴ礁生息地全体を壊滅させる可能性があります。また、その生息地は琉球諸島の重要な観光資源でもあります。日本のサンゴ礁ではオニヒトデの個体数が慢性的に多いことから、沖縄県では70年代初期から個体数抑制策を助成してきました。当初漁師は個体をサンゴ礁から一つずつ除去していましたが、十分な規模での回収ができず効果は限定的でした。また、散発的なサンゴ礁の回復が見られても、さらに大発生したオニヒトデ個体群の捕食により阻止されることもしばしばありました。

 個体数抑制策が部分的な成功に留まる一方、恩納村地域におけるオニヒトデのデータは継続的に収集され、時間の経過と共に情報が蓄積されてきました。1989年からオニヒトデの回収地域と除去数の記録が開始され、また2003年には大きさによる7段階の分類が開始されました。これらの定期的で確実な記録により、長期的な個体数と動態の分析が可能になりました。恩納村沿岸水域のデータを見ると、オニヒトデ個体群が慢性的に観測されています。サンゴ礁が生息する他水域では数年間に個体数密度がかなり大幅に増減することが報告されており、これらと比較し今回の結果は珍しいといえます。

 本研究ではオニヒトデの長期的な個体群動態の分析に加え、回収のため5水域に分割した恩納村地先の個体群の維持を可能にする要因を調査しています。個体数維持を可能にする要因として、海水温、台風の回数、恩納村地先への栄養素の流出を招く可能性がある降雨量の影響が調査されました。データ収集はオニヒトデの幼生分散のピークと考えられる7月~8月に行われました。

 上記要因と慢性的に高い個体数比率に有意な相関関係はないようですが、本研究では恩納村地先で捕獲された個体の大多数は一定の大きさと年齢幅に収まることが分かりました。これは地域内だけでなく地域外から比較的安定した数の個体が新たに加入していることを示唆しています。加入率とは幼生または未成熟の状態で新たに一定地域に流入してきたオニヒトデの数のことです。また収集データは、恩納村沿岸に沿って北に向かうほど個体数密度が高い傾向を示していました。

 現在さらに、継続的な加入の原因となりうる同地域の海流の動きや他の環境要因に関する研究が進められています。この研究がオニヒトデ大発生の原因と場所について理解を深めるための基礎となることが期待されます。中村研究員は、「この研究は最初の一歩です。現在私達は保護活動の一助となるようさらに詳細な研究を進めています。とはいえ誰よりもこの地域の海を知る地元の漁師さんの助けがなければ、ここまでのことはできなかったでしょう」と説明しています。

 

(ショーン トゥ)

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