OIST研究者、世界最大の脳神経シミュレーションに成功

OISTを含む日独の共同研究チームが、17億3千万の神経細胞が10兆4千億のシナプスでつながった脳神経ネットワークのシミュレーションに成功しました。

 世界最高水準のスーパーコンピューター『京(けい)』(理化学研究所、神戸)を使って、OISTと理化学研究所、ユーリッヒ研究所(ドイツ)の共同研究チームが、17億3千万もの神経細胞が10兆4千億のシナプスでつながった脳神経ネットワークのシミュレーションに成功しました。これは従来の記録を神経細胞数で6%、シナプス数で16%上回り、脳の神経回路シミュレーションとしては世界最大となります。

 京での計算を担当したOIST神経計算ユニット(銅谷賢治教授)の五十嵐潤研究員は、本研究に最も貢献した若手研究者の一人です。用いたオープンソースのソフトウェアNESTは脳の神経回路をシミュレーションするために開発され、世界中の研究者に使われています。NESTはパソコンからスーパーコンピューターまで広範囲なコンピュータで使用できるものですが、通常のパソコンと異なる京の環境に合わせるのには様々な苦労があったと五十嵐研究員は研究を振り返りました。

 今回計算した脳神経ネットワークは神経細胞がランダムに結合した仮想のものですが、神経細胞の数では小型のサルの全脳の規模に相当する世界最大のシミュレーションです。人間の脳としては1%の規模に相当し、将来の人間の全脳のシミュレーションへの一歩となる成果です。シミュレーションでは、脳の学習機能に関わる、シナプス結合が活動に応じて変化する性質を再現しています。神経細胞は、平均して4.4回の発火と呼ばれる電気信号を生じ、現実の大脳皮質に近いレベルの活動を示しました。脳の1秒間分の現象がシミュレーションされ、京での計算には40分かかりました。本研究により、これまで開発された脳神経のシミュレーション技術と京の可能性を確認することができました。

 銅谷賢治教授はこの成果を受けて「やっとスタート地点に着いた」と実感を述べています。この成果が実際の脳の構造と機能をその規模で研究するための基盤となるからです。同研究ユニットが進めるパーキンソン病の研究では、大脳基底核や大脳皮質など、実際の脳の領域をシミュレーションし、パーキンソン病特有の震えや筋肉硬直などの症状が起きているときの脳の現象を明らかにしようとしています。症状の原因となる脳内の信号がわかれば病気の治療につながると期待されます。

 世界の脳科学研究はさらに、人の全脳のシミュレーションという究極の目標に向けて大きく動き出しています。人の脳には何千億もの神経細胞があり、1つの神経細胞は約10,000個のシナプスで脳全体とつながっているため、脳の機能を再現するには、脳の一部分ではなく、脳全体をシミュレーションする必要があります(図1)。2000年代には、全神経細胞間の結合、いわゆる脳の回路配線図の全貌を明らかにするコネクトーム計画が始まり、現在急速に進んでいます。また日本のスーパーコンピューター開発では2019年頃を目標に、京の100倍の速度を持つエクサフロップスマシンを実現するための議論が始まりました。このエクサフロップスマシンの性能は、人の全脳をシミュレーションすることが可能な計算速度とみられています。五十嵐研究員は、「そのマシンができることを見据えて、今から少しずつ人の全脳を計算する方向に向けて研究を進めたい」と抱負を語っていました。

2013年8月2日付け共同プレスリリースを読む

 

研究ユニット

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