脳深部刺激が異常神経活動を取り除く ― トゥレット症候群のモデル動物で証明 ―

OIST神経システム行動ユニットの研究者らは、運動チック症状を引き起こす異常な神経活動が、大脳基底核の淡蒼球という部位を高頻度で電気刺激することによって除去されることを世界で始めて明らかにしました。

 脳神経疾患であるトゥレット症候群では運動チックと呼ばれる素早い不規則な運動が自分の意思とは無関係に出現し、日常生活に大きな支障をきたす場合があります。運動チックの発生には、大脳皮質や大脳基底核など、広範囲に及ぶ脳の機能異常が関係すると考えられています。

 沖縄科学技術大学院大学のケビン・マックケアン研究員と磯田昌岐准教授(神経システム行動ユニット)らの研究グループは、運動チック症状を引き起こす異常な神経活動が、大脳基底核の(たん)蒼球(そうきゅう)という部位を高頻度で電気刺激することによって除去されることを世界で始めて明らかにしました。本研究成果は、英国科学誌NeuroReport(ニューロレポート)に掲載されました。

 研究では、トゥレット症候群のモデル動物を使い、脳深部刺激法が運動チック症状をどのように改善しうるのか、その作用メカニズムを生理学的に解明することを目指しました。近年、パーキンソン病に対して有効性が確立された脳深部刺激法という治療法が、トゥレット症候群に対しても有効であるとする報告がなされるようになりましたが、肝心の治療効果のメカニズムについては全くわかっていませんでした。

 研究者らは、まずチック症状を呈するモデル動物の淡蒼球にセンサーを挿入し、神経細胞が発する電気信号をモニターしました。そして、運動チックの発生に伴い多数の神経細胞が異常な活動パターンを示すことを確認しました(淡蒼球の外側部分では活動が上昇し、内側部分では活動が低下する)。続いて淡蒼球の内側部分に刺激用の微小電極を挿入し、その先端から高頻度で電気刺激を加えました。その結果、モニターした70%以上の神経細胞で、上記の異常な神経活動が電気刺激中に消失し、同時にチック症状が軽減することを突き止めました。

 この発見は、トゥレット症候群の運動症状に対する脳深部刺激法の治療的効果を、世界で初めて細胞レベルで確認した点で画期的です。本研究成果は、他の様々な精神神経疾患に脳深部刺激法を応用するうえで重要な示唆を与えます。

 マックケアン研究員は、「これまでパーキンソン病の治療に有効とされてきた脳深部刺激法が、トゥレット症候群の治療法に直接結びつくことが分かりました。」と、この発見の重要性を強調しています。

 本研究は、沖縄科学技術大学院大学のケビン・マックケアン研究員と磯田昌岐准教授、ならびに独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センターの入來篤史チームリーダーとの共同研究により行われました。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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